『チーズはどこへ消えた』スペンサー・ジョンソン氏(19冊目)

読書日誌

ビジネス書で検索すれば必ずやヒットする本作。有名であるため、周りにも読んでいる友人が多い。昔から気になっていたので、この際に手に取ってみた(前回の「運転者」と同様にKindleUnlimitedで読むことができた)。
本作は80ページほどしかないので、あっという間に読むことができる。話はシカゴの街に集まった大人のグループの会話から始まる。高校時代からみんな随分と変わったよねー…などとたわいもない話をしている。ある人物が「チーズはどこへ消えた?」という物語に出会ってから、仕事とプライベートに大きな変化があったと話し始め、本編がスタートする。

『変化』とどう向き合うか

物語には、二人の小人と二匹のネズミが登場する。小人の名前は「ヘム」と「ホー」。ネズミには「スニッフ」と「スカリー」と名前が付いている。この4人(ネズミもまとめて人扱いする)が迷路の中でチーズを探し回る物語である。小人は人間的な考えを持っており、いろいろ考えを巡らせながら行動をする。ネズミはある種単細胞的に、深く考えもせず突き進む。
ある日、4人は大きなチーズを見つける。当分は安泰。もう新しいチーズを探しにいかなくてもよいのだと幸せを享受していたのも束の間、ある朝突然チーズがなくなっていた。はてどうしたものか。それからの小人とネズミの行動に大きな違いがあるのだが、その行動の中に、「変化」とは何か、そして、変化にどう対応したらよいか、その本質が詰まっていた。

動けるか、動けないか

まずはネズミ二匹。彼らはチーズがなくなったことにショックを受けつつ、すぐに新しいチーズを探しに再び迷路へ進んで行った。彼らはチーズを毎日観察しており、チーズが小さくなっていくのに薄々気づいていた。いずれなくなると覚悟ができていた。だからすぐ行動に移すことができた。チーズがないことを事実として受け止め、すぐに新たな一歩を踏み出した。

一方、小人二人には、チーズがなくなったことが青天の霹靂のごとく、驚きであった。彼らは「チーズはなくなることはない」と安心しきってしまい、チーズが日々小さくなっていることにまったく気づいていなかった。現実を受け止められず、とりあえず近くを探してみることしかできなかった。わかるよ小人さん。「自分のチーズが大事であればあるほど、それにしがみつきたがたる」ものだから…。現状維持が一番楽。「変える」「変わる」ことは少なからず労力を要し、リスクもある。だが、周囲の環境が変わっていく中で、いつまでも現状維持を続られるほど、世の中は甘くない。

『変化』しないことが一番怖い

変化に対応できないとどうなるか。小人二人のこの後の行動ではっきり示されている。ホーはというと、不安や恐怖を抱えつつも、再び迷路に足を踏み入れた。どこにチーズがあるかもわからない。今度はチーズを見つけられず、路頭に迷ってしまうかもしれない。だが、そうした不安よりも、このまま現状維持を決め込む方が明らかに”ヤバい”と判断をした。しかし不思議なことに、いざ動き始めると、意外と気分がいいことに気がつく。「遅れを取っても、何もしないよりはいい」ホーは心の中でこう呟いている。チーズがない現状を憂い、なすがままになっているよりも、「自分でなんとかしよう」と行動することで前向きな感情が芽生えはじめていた。

一方ヘムの方は、チーズがなくなった場所に居座り続けていた。チーズはきっとまた現れると淡い期待を持ち、変化を受け入れられずにいた。途中、ホーが小さなチーズを見つけ、ヘムにもお裾分けしようと戻ってきたが、その際「昔のチーズの方がほしいんだ」と発言している。「昔は良かった」と過去の栄光をいつまでも引きずっているサラリーマンおじさんと重なるところがあった…。

『変化』=『成長』

この物語の主人公はホーだと思う。なぜなら、作中で一番「変わった」(成長した)のがホーであるからだ。筆者はホーを通じて変化することの大切さを伝えたかったのだろう。ホーもはじめはヘムと同じように変化を恐れていた。しかし、変化を受け入れ、一歩前に踏み出すことで意識が少しずつ変わっていく。彼は迷路の途中で気づいたことを壁に記している。

・自分のチーズが大事であればあるほど、それにしがみつきたがる
・古いチーズに早く見切りをつければ、それだけ早く新しいチーズがみつかる
・まだ新チーズが見つかってなくても、そのチーズを楽しんでいる自分を想像すれば、それが現実になる

チーズはいずれなくなる。大切なのはそうした事実を素直に受け入れ、動き出すことだ。柔軟な姿勢で、迅速に。「変化」は怖い。現状維持が楽に決まっている。人間はリスクを恐れる生き物であるので、仕方がないことだ。変化に対して誰も手助けはしてくれない。しかし、勇気を持って恐怖に打ち勝ち、一歩進みだすことさえできれば、不安という名の霧は晴れ、ホーのように晴々とした気持ちを得ることができる。毎日を当たり前に過ごしているが、それで自分は成長していると言えるのか。昨日とは少しでも違う自分になることができているのか。気を抜けばつい現状維持を決め込んでしまう。変化が起こっているということは、成長のチャンスが潜んでいるということでもある。変化を成長のチャンスと捉えることができれば、ホーのように少しは勇気をもって行動できるかもしれない。

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