日本半導体復権への道 牧本 次生 氏(16冊目)

読書日誌

ソニーに入社し、日本の半導体産業の盛衰とともに人生を歩んできた牧本氏。かつて世界を席巻した日本の家電産業を支えていた半導体の発展の歴史や、現在の日本の強み・弱みについて書かれていた。「半導体は現代文明のエンジン」と言われるほど産業には欠かせないもの。半導体産業の構造が今ひとつ掴めていなかったが、本書を読むことで、ぼんやりとであるが半導体を取り巻く世界の関係や産業の構造が把握できた、気がする…。

世界の産業構造の変化スピードに追いつけなかった日本

押しも押されぬ世界の大国アメリカは、半導体産業においても強固な地位を確立している。しかし、かつては日本が世界のトップを走っていた時代があった。1980年代、半導体シェアで日本は一時トップに立っていた。家電製品を筆頭に高品質の製品を世に提供し、「Japan As No1」と呼ばれていた時代だ。これをよしと思わなかったのがアメリカだ。日米で半導体貿易摩擦が生じていることを理由に、日本に圧倒的不利な日米半導体協定を締結させた。これにより、日本の半導体産業は大きく弱体化させられた。加えて、1990年代からはアナログからデジタルへの産業構造の変化が起こった。日本はこの流れにうまく乗ることができず、半導体産業における日本の存在感は小さくなってしまった。「1990年代を境にして産業構造に大きな地殻変動があり、日本企業はその変化に追随できなかった。(中略)日本勢は民生品が中心となるアナログの時代に大きな力を発揮したが、パソコンやスマホが中心となるデジタルの時代になると、それまでの強みが弱みに変わってしまい、シェアの低下につながった」。半導体のメイン市場は、家電製品⇨パソコン⇨スマホへと転換してきた。日本の半導体企業は海外向けの製品企画やマーケティングの力が十分ではなく、これがシェアを落とす大きな要因になったそうだ。1990年代からのデジタル化の流れによる産業構造の変化スピードは想像を超えたものだったのだろう。それに順応できた韓国や台湾などは現在でも半導体産業では強い存在感を発揮している。

日本の強みは川上産業にあり

筆者によると、半導体関連産業は半導体デバイス産業を中心として、川上に半導体製造装置産業と材料産業、川下に半導体を使って機器を作る電子機器産業に分かれている。日本の強みは川上にある。特に、半導体材料産業は世界トップレベルのシェアを誇っており、「日本からの材料が止まれば世界の半導体生産はストップする」とまで言われるほどだ。半導体装置製造産業でもアメリカについで世界2位のシェアを誇っており、存在感を発揮している。しかし、平穏がそう長く続かないのが半導体産業であるらしい。隣国の韓国では官民一体となって川上産業の国産化を推進しているそうだ。サムソンをはじめとする世界的大手企業を有する韓国であるから、今後は脅威となってきそうだ。また、本書では、世界各国が国をあげて半導体産業の成長を目指している様子が紹介されていた。自動車や通信機器、医療分野や金融・保険分野など、半導体産業は隣接するさまざまな分野の基盤となっている。半導体産業の力=国力といっても過言ではないくらい、影響力がある分野なのだ。日本政府のこうした分野への取り組みというところも、今後は注目して見ていきたいと思った。

第4の波に乗れるか

先述したが、半導体のボリューム市場にはこれまで3つの大きな波があった。一つ目は家電製品の波で、これを制したのが日本である。第二の波はパソコン、第三の波がスマホであり、米国が世界をリードしている。最盛期には世界の50%のシェアを誇っていた日本であるが、現在は10%までに落ち込んでいる。この状況を挽回するためには、来たる第四の波をしっかりと捉え、先導することが必要となる。筆者によれば、その第四の波は「ロボティクス」だそうだ。自動運転車やドローンといった移動ロボットをはじめ、見守りロボットやコミュニケーションロボット、産業用ロボットなど、ロボット産業はこれから大きな成長が期待される産業である。自動車産業でいえば、グーグルやアップルといったIT企業が参入を目指しているなど、産業構造が大きく変わろうとしている。「日本の半導体デバイス産業は現在絶滅危惧の状態になっており、これはまさに国家的な重大局面である。半導体は現代文明のエンジンであり、半導体を失って日本の明るい未来はない」。日本では少子高齢化が進んでいる。人手不足問題を緩和させるためには、ロボット産業の立ち上げが急務である。日本がロボット社会のモデルケースとなることができれば、ロボット産業において優位に立ち振る舞うことができれば、過去のようにもう一度世界を席巻できる日が来るのかもしれない。。。

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