『読みたいことを、書けばいい』田中泰延氏(7冊目)

読書日誌

履歴書のインパクト

 大阪出身、学生時代に6000冊の本を乱読し、電通でコピーライターをされていた田中氏の本。立ち読みの際、履歴書のページを見て、変わった人だな、面白そうだなという直感が働き購入。ブックオフで220円で買ったのだが、かなりコスパの良い買い物だったと思った。口語調の文章が非常に読みやすく、ユーモアもあって、楽しみながらあっという間に読めた。

文章への向き合い方

 いわゆる文章の書き方についてのテクニック本ではなかった。どう言った気持ちで原稿に向き合えば良いかという心構えを中心に述べていた。何のために書くか、何を書くのか、誰にかくのか、どう書くのか、なぜ書くのか、という5W1Hに沿って章立てがなされている。

 著者が一番言いたかったことは、「自分のために」文章を書くということだ。自分が楽しいと思って文章が書けなければ、他の人が読んで面白いと思えるはずがない。読み手などは想定して書かなくていい。その文章を最初に読むのは自分であるし、自分で読んでおもしろくなければ、書くこと自体無駄だと言い切っている。書くことを職業としている人が言うのであるから、説得力がある。スイスイ読める本というのは、文章を読んでいるというより、著者が目の前で語りかけてくれているような感覚になる。

どう書くか

 後半における「どう書くか」という方法論について述べられている部分は、さすがコピーライターといった印象だった。「事象に出会ったとき、そのことについてしっかり調べて、愛と敬意の心象を抱けたならば、過程も含め、自分に向けて書けばいい」。この一文に要約されている。結論の重さは過程に支えられている。なぜそう思ったのか、なぜその結論に辿り着いたのか、そこに至るまでの自分の思考回路をしっかり伝えようとすることが、わかりやすい、伝わる文章の第一歩らしい。そのためには、ひとつひとつの単語に疑問を持ち(しっかり定義を知る)、本当にそれが正しい情報なのか、一次情報に当たって確かめるという手間をかけることは必要らしい。図書館の正しい使い方について初めて知ったし、司書と呼ばれる人の役割がはじめてわかった笑。わかりやすい文章=後から自分が読んで、過不足ない情報が盛り込まれている文章と言える。

話の伝え方にも通ずる

 本書では文章を書くことについての考え方以外に、日々の生活に活用できる教訓もあった。コラムにあった『プノンペンジョー理論』だ。人にわかりやすく物事を伝えるためのテクニックを筆者がこう呼んでいた。人に話す時は、相手の脳内に自分と同じ「情景が浮かぶように話すべし」とのこと。「交換留学生としてカンボジアに行き、その土地の問題と貧困について経験し、国際的な支援が必要だと思いました」と言うよりも、「2017年4月のことでした。ひどい豪雨の夜で、大きな雷が落ちて、プノンペンの街は大規模な停電になったんです。私がいたレストランも真っ暗になって、暗闇の中で一晩を過ごしました。その時、レストランのオナーのジョーさんは、停電を謝りながら、こういったのです、この国には支援が必要だと・・・」と話せた方が、相手の食いつきがいいのは当たり前だろう。リアルな絵が目に浮かぶように説明すれば、相手に伝わるし、興味を惹きつけられる。この例えがすごくわかりやすかった。

 

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