『バッタを倒しにアフリカへ』前野ウルド浩太郎(5冊目)

読書日誌

概要

ポスドク(博士号を取得後に任期制の職についている者)で、「バッタに食べられたい」というほどバッタを愛してやまない著者が、サバクトビバッタの大量発生の原因を解明するため、アフリカのモーリタリアにわたり、研究活動に打ち込む様子を描いた作品。サバクトビバッタは最古の害虫と呼ばれており、大量発生による災害は「煌害」といわれ、群れが通った後には、畑の食物や草木が全て食い尽くされ、何もなくなると言われるほどおぞましい被害をもたらすという。バッタの群れが飛んでいる動画を見てみたが、数が多すぎて空が黒くなっている光景は別世界のようで衝撃的だった。ただでさえ食料難や伝染病などに悩まされる貧しい国なのに、こうした災害もあるとは…。つくづく日本は幸せな国だなとも感じた。

好きなことに熱中できる幸せ

 本書を読んで感じたのは、自分が好きなことに熱中できることはとてもかっこいいということ。何か一つのこと、自分が好きなことに一生を捧げられる人は、世の中にどれほどいるだろうか。本気で人生を過ごしているからこそ、幸運も自然と巡ってくる。周囲の人も、この人のためならと協力をしてくれる。ババ所長、ティジャニなど、現地の人と国籍という垣根を超えて家族・仲間のような間柄になっている著者をとても羨ましく感じた。昆虫学者は決して儲かる仕事ではないと思う。著者のように、ブログを書いたり、本を出したり、研究費を稼ぐためには大変な努力がいる。ただ、彼らは本気で自分の仕事が好きである。胸を張ってそう言い切れる強さがある。だからこそ、彼らの人柄、行動、生き様には人を惹きつける魅力があるのだと思う。周りが見えなくなるくらい、物事に打ち込むと言う経験は、人生において大切なのだなあと改めて感じた。

まだまだ我々は恵まれている

 ババ所長の言葉で心に残った一文がある。「あなたが現状に不満をもっているなら、周りを見回してあなたが置かれている環境に感謝すべきだ。幸運にも私たちは必要以上に物を持っている。際限なく続く欲望に終止符を。」辛い時は、自分よりも恵まれている人を見てはいけない。辛い時には自分よりも大変な人達がいることを思い出し、自分はまだ恵まれている方だと感じることで、心が楽になる。本書には、アフリカ生活のさまざまなシーンが描かれていた。アフリカは日本に比べると、決して生活環境や衛生面が良いとは言えない。貧困に喘いで、毎日の食事もろくに取れない人が大勢いる。1日1日を生きるのことに必死なのだ。一方で、自分は日本という恵まれた国に生まれ、なに不自由なく生活ができている。それなのに、仕事のストレスがどうとか、人間関係が嫌だとか、そういった類の愚痴や不満を言っているようでは、なんとも情けない。アフリカの方からすれば、大変贅沢な悩みだと思う。「上を向けば涙はこぼれないかもしれない。しかし、上を向くその目には、自分よりも恵まれている人たちや幸せそうな人たちが映る。その瞬間、己の不幸を呪い、より一層惨めな思いをすることになる。人生という尺度で見た時に、不幸だなと感じる時もあるだろう。ただ、もっと不幸な状況にいる人、恵まれていない人は世界に大勢いる。その人たちよりも先に自分が嘆くのは、軟弱もいいところだ。これから辛い時は、涙がこぼれてもいいから、下を向き、自分の幸せを噛み締めることにしよう」。この著者の言葉は、自分が今後の人生で辛い場面に出会した際に、励みになる言葉だと強く思った。

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