『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』森岡 毅 氏(10冊目)

読書日誌

前書に引き続いて森岡氏の書籍をピックアップ。P&G、USJでマーケティングの真髄を身をもって学んでこられた森岡氏が書く「マーティング入門書」であるので、読まない理由はない。マーケティングのフレームワークの考え方はもちろん、前書にもあったキャリアについての考え方についても参考になる点が多い書籍であった。

『Customer is cool(消費者をボスだと思え)』

この考え方は、森岡氏が勤めていたP&Gの企業価値観である。マーケティングのスタートは、どれだけ顧客視点に立つことができるかである。技術面、品質面での性能は優れているのに、なぜか製品が売れないという話をよく耳にするが、それは顧客視点に立脚できていないことが要因の場合が多い。その理由の一つは、作り手と消費者の求めるレベルのギャップにある。製作者はその道の“プロ”であり、目が肥えているので、ついつい消費者が求める水準よりも高いレベルのものを提供してしまう。もう一つは、会社というたくさんの人が集まっている集団の中では、会社の利害と個人の利害が必ずしも一致しないというものだ。分かりやすい例えがあったが、消費者がカレーライスを欲しているのに、社内ではカレーライス派とすき焼き派に意見が分かれてしまい、挙句“カレーすき焼き”を作ってしまうという最悪のケースが往々にしてみられているとのこと。日本人の特徴として、社内でのいざこざを避けるために“落とし所”を作りがちだ。しかし、大抵の場合、この妥協案は消費者最適にはなっていない。また、社員一丸となってカレーライスを作ろうとしているのに、社長の一声ですき焼きに方向転換してしまうケースも多い。マーケターの仕事は、単なる伝書鳩にならず、顧客のニーズに沿った方向に、自分以外の人間を説得して巻き込んでいくことである。

なぜ日本企業はマーケティングが弱いのか

マーケティングが盛んな会社の多くは、「ローテク」な製品を売っている。シャンプーや食料品といった家庭消費財は言ってしまえば“簡単に作れる”製品であり、参入しやすく、市場のプレイヤーは星の数ほど多い。そうした激しい競争環境の中だからこそ、「売り方の工夫」が必要であり、マーケティング力が重要になってくる。一方で、戦後の日本企業は家電や自動車といった「ハイテク」製品で世界を席巻した。参入には巨大な資本が必要な上に、技術革新も激しい。作れば売れる時代でもあったので、マーケティング志向が育つ環境が出来にくかったのである。日本の場合、製造業は特にマーケティングに弱いと感じる。それはある意味チャンスでもある。他社が積極的に取り組んでいない、または、苦手としているからこそ、マーケティング力を強化し、売り方を工夫すれば、中小企業でも大手を出し抜ける可能性は大いにあるように思える。

マーケティングの本質と戦略

マーケティングの本質は「売れる仕組みを作ること」。そのために、消費者の頭の中にそのブランドに対するイメージ(ブランド・エクイティー)を築くことが、ブランディングと呼ばれる。トヨタの「レクサス」や「メルセデス・ベンツ」と聞くと、誰しもが会社のロゴをイメージできるし、高級車、技術力、安心といったよいイメージを連想する。こうしたブランドエクイティーを築くことがマーケティングの仕事と言える。

 マーケティングを理解する上で「戦略」についても知っておいた方がよい。戦略とは、「目的を達成するために資源を配分する「選択」のこと。やることを選ぶと同時に、やらないことも選ぶ、つまり、「選択と集中」こそが戦略の核となる考え方である。10個の仕事があれば、3個は集中して取り組み100点から80点を目指し、残り7個は50点、30点とほどほどでもよいのだ。10個すべてを集中して取り組もうとするのは、限られている資源を無意味に分散しているだけであり、「戦略的」とは呼べない。また、戦略とよく似た言葉に、「戦術」がある。森岡氏によれば、戦術とは、戦略を実行するための具体的なプランらしい。戦略思考は常に「目的⇨戦略⇨戦術」と展開して考えることらしい。(ちなみに、「目的」と「目標」の違いについても定義されていた。「目的」とは達成すべき使命のことであり、戦略思考の中の最上位の概念。「目標」とはその目的を達成するために経営資源を投入する的とのこと。「目的はパリ占領、目標はフランス軍」「目的は妻との仲直り、目標は妻、戦略は弱点の甘いものから攻める、戦術はロールケーキを買って帰る」といった例えが分かりやすかった)。
仕事に取り組む際、まず「どうやってやろうか」というHowを先に考えてしまいがちだが、この仕事の目的は?ということを考えられるようになると、仕事への取り組み方も変わってくるように思う。本書では、マーケティングフレームワークが紹介されていた。目的=Objectivie、目標=Who、戦略=What、戦術=Howの順で考えていく「型」のことである。この型がうまくはまれば、ビジネスは爆発する。USJのハロウィンホラーナイトを大成功させた例は非常に分かりやすい実例だった。ここまで大きい話ではなくとも、日々の仕事の中でも、「この仕事の目的ってなんだっけ?」「目的を達成するためにどこから攻めようか」と型に沿って仕事を進めると、成果の出方が変わってくるかもしれない。

戦略的思考を日々の生活でも

マーケティング思考を持ってビジネスすることは重要だ。「大事なものを選択して集中すること」は日々の仕事でも活用できる。私の悪い癖だが、あれもこれもやろうとしてしまい、全てが中途半端な状態といった場面がよくある…(今回のブログもあれもこれもとなってしまって、取り留めのない文章になってしまっている…)。何に集中して取り組むかをしっかり決め、決めた以上は他のことには目もくれず、目の前の仕事に集中して取り組む。意識して実践していきたい。
また、筆者が最後に紹介していた「手のひら法」も面白いテクニックだと思った。毎朝、通勤の電車で手のひらを眺めて、その日に達成することを3つ選ぶ。そして帰宅する途中で、同じ手のひらを眺めて、達成できたかどうかを確認するというものだ。出来なかったことがあれば、その原因と、次はどうするかを考えるとのこと。1日という短期間でPDCAを高速で回しているイメージだ。可能であれば、これを週単位、月単位でも実践するとなお良いとのこと。とりあえず、やってみよう。


マーケティングと聞くと、TVCMや広告など、華々しい仕事のイメージがあったが、その本質はシンプルであると感じた。顧客が何を望んでいるのかを、相手の視点に立って徹底的に想像する。そして、その想像をもとに、目的、目標、戦略、戦術と順を追って考えていく。こうしたシンプルなことをいかに実直かつ忠実に実行できるかどうかが、成功する企業とそうでない企業との大きな差であると思う。

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